月の裏

僕の夢は、いつだってないものねだり。 明くる日も、また明くる日も 恋に焦がれ、君を想う。 求めているだけなんだ。 そんな弱さが、十一月の肌寒さに重なって 僕は歯を食いしばる。 君の半分だっていい、 僕は、僕の全てをあげたいんだ。 追いつけないから…

暴力

機械仕掛けの街、鬱蒼と茂るコンクリートの森。 偏執病のアンドロイドは、心を持ちうるのか、 鬱の病に侵される。 声高に、不条理を糾弾する自称弱者の金切り声が 黒板を擦るように、私の心を摩耗させる。 消極的な肉食主義者達は軈て抹殺され、 青々とした…

銃と君と僕と

君は僕の前に立っている。 一輪の花を握りつぶした君は、何が見えているのか? 僕は君の前に立っている。 あの花を渡した罪を、嫌というほどにかみ締めている。 君は何も言わない。 僕は君が言いたい事を知っている。 君は何も聞かない。 僕が分かっている事…

KID A

私が追いかけ、焦がれた星。 星は炎の中にいた。 炎の中から、私に語りかけていた。 この星はどうなるのか、と。 この星はどこに行くのか、と。 星は超大な爆発と共に散り、欠片は黒い海に飛散した。 星は、今も語りかけている。 私は追いかけることを辞めて…

ぬくもりさみしがり

ねぇ、あの絵を見て。 私、こういう絵とっても好きなの。 なんだか冷たくて、気持ちがいいから。 あなたはどう思う? ふーん。そう。あなたも同じなのね。 怖くて不気味だ、って。みんなと同じ。 なんで気持ちがいいのか、って? 私ね、とっても暑がりなの。…

きっと変わる

聞いておくれよ、きっと僕は変わるんだ。 何の気なしに夜の海に訪れて、 少し遠くの公園までサイクリングして、 ちょっと高いレストランで食事をして、 僕は変わるんだ。 何にもないような人生だったけれど、 僕には色が無いだけだったんだ。 色を垂らしてみ…

いっぽんみちの、わかれみち

まるで、時間が止まったみたい。 君に置いて行かれ、僕だけがここで年をとる。 時代は回ると言うけれど、もしそれが本当ならば 僕は君とまたどこかで会えるのかな。 僕には信じられないのさ、きっと直線なんだ。 交わらないけれど、線のどこかに 鳥がいて、…

怠け者

冬に色づきかけの秋。 寒波の間隙を縫って、ひょいと顔を出すぽかぽかした陽気がやけに心地良い。 路傍に転がる潰れた銀杏がつんとしていて、それもまた秋の顔なんだと頷く午後三時。 なんとなく、どこか夢見心地のまま なんの気なく川辺をとぼとぼ歩いてい…

藍色

潮騒のインディゴ。 温くてしょっぱいこの街の風が、なぜか僕達を甘くする。 深いようで浅く、僕達はひとつになる。 潮風ですっかり錆びた、アコースティックのアルペジオは重いようで軽く、 僕達は唄っているね。 波打ち際の棄てられたラジオが、今にもナイ…

インビジブル

寒空の下、瞼を閉じて、思い出す。 あの星座に向かって君と誓った約束も、 瑞々しくて不格好だった柔らかなキスも、 まるで遠い昔の神話のように、その形は流れるままに風化してしまった。 精一杯背伸びして、放ったあの日の宣戦布告は まだ続いているのだろ…

なんでもいいよ

「ねえ、どこに行きたい?」 「どこでもいいよ、」 「ねえ、何食べたい?」 「なんでもいいよ、」 「ねえ、どっちが似合うかな?」 「どっちでもいいよ、」 「ねえ、何して欲しい?」 「なんでもいいよ、」 「ねえ、私のこと、どう思う?」 「どうでもいいよ、あっ。」 彼女はに…

泣き言は泣いてから言え

惰眠が襲う五時間目。 塩素に濡れた黒髪が汗と混じり首筋に張り付いている。 いやらしくて汗臭い妄想で脳みそを膨らます阿呆は 己の醜さを鑑みること無く、マドンナとのアバンチュールで頭がいっぱいなのだ。 下衆な悪友とポテトフライをつまみながら、世界…

ひねくれ者の独り言

どこぞの知識人が偉そうに言っていた。 「人が本当に死ぬ時、それは誰からも忘れ去られた時だ。」と。 脂がたっぷり乗った卑しさ満点の文化人は嫌いだが、その言葉に俺は唸った。 生い茂る青々とした葉も首を落とす時節に、俺は決まって郷里に赴く。 先頭に遅…

2000's

ブルー・トゥースから流れるローファイに耳を傾け、国道を走る俺達。 煙を蒸して、コンビニのホットスナックを コカ・コーラで流し込む。 今はすっかり狭くなった公園で スケートボードを走らせる。 爪先に穴の空いたオールドスクールを滑らせて 俺達は笑う…

不運な男

この世界は少し変わっている。 何でも彼らには、他人の頭上に数字が視えるというだ。 その数字は彼らの『寿命』を表しているらしい。 数字は日を跨ぐ毎に一ずつ減ってゆく。 要するに、頭上の数字が死ぬ迄の日数を示しているということだ。 別に、だからどう…

心象

砂塵が舞う此処は異世界。 枯渇した大地にはもう、何も芽吹かない。 タールに穢された真っ黒の海に流れ着く 硝子の瓶を拾い上げて、纏わる汚れを落として、 包みの紐を解く。 これで何度目だろう。 もう見えなくなった、どこかの誰かを待ち続けている。 この…

Rendezvous.

いつかの映画で観た逃避行を、 私達は駆けている。 据(しがらみ)の無い何処かへ、 私達は信じている。 口煩い大人達への宣戦布告を捧げ、 私達は足掻いている。 情けない言い訳はもう無しにしよう、 私達は蒸してる。 ロングピースの煙の行先を辿って、 私達…

拝啓、ジョン・ライドンへ

14歳の夏、俺はパンクに出会った。 最初は、なんとなく落胆したんだ。 大人達から聞かされていた素晴らしきクラシック・パンクは、俺には遅すぎたようだった。 理解したつもりで振舞っていても、心のどこかで 「こんなもんか。」 なんて思っていた。 それでも…

追討

一昨日の夜、ロック・スターが命を絶った。 まるで予行練習でも行っていたのか、 皆一様に、与えられた役割をこなし始める。 スクリーンには取って付けたような定型文が並び、 彼、或いは彼女の死を悼んでいる。 涙はいつの日からか流れず、 添えられた顔を…

傷だらけの天使

ミラーボールが厭らしく廻る、地下のライブハウス。 客席へと繋がる階段は、往年のグラビア・アイドルで敷き詰められている。 そこには、誰もいない。 踊っているのは、ピンクのライトに照らされた 歯車仕掛けのマネキン達。 ステージには、僕だけが立ってい…

産業革命

胸に煌めく黄金色。 着色された誇示の色はイミテーションに過ぎず、 その色は心の弱さに拠るものである。 燦然として見える其れは凡庸なセレブリティの賞賛を受け、レッドカーペットを闊歩する。 澄み渡る青い空さえも其れを讃え、肥大する顕示欲はとどまる…

プライマル・スクリーム

何時かの時代の、何処かの星。 大地に降りた一つの獣が、慟哭した。 獣には、護るものも、護られるものもない。 悪戯に消費されてゆく意味の無い虚無に、 苛立ちと悲哀を感嘆したのだ。 獣は、凡そ(おおよそ)自身を護る枷があるのだと 信じて大地を進んだが…

雑種

何て広い世界だろう。 何て苦しい世界だろう。 そんな世界の片隅の、僅かな隙間に産まれた私は 中途半端な混ざりものだ。 それはまるで、余った布を乱雑に縫い合わせた ちぐはぐのドレスのよう。 みんなに罪はなくとも、悪びれることはなくとも、 たとえヒッ…

今際の懺悔

日本の某所にある拘置所。 近々、私が此処へ配属されて十年になる。 此処は特別な場所だ。 この国で最も重い罪が"執行"される場所なのである。 この仕事に就き、私は数多の罪人の終わりを見送ってきた。 放火を行った者。 人を欺き、大金をせしめた者。 怨恨…

恥ずかしがり屋のブギー・バック

高い空の中で雲が動いている、晴れた日の夜。 僕は自分に問い、君に答える。 こんな気持ちは初めてだ。 今までなかった、二度とないかもしれない胸の高鳴り。 僕は今自分が分からない。今までのことも、これからのことも。 大人びたつもりが、僕は真っ赤に熟…

ストーカー

在る日の夜、酷い不快感に襲われた僕は 喘ぎ、悶えながら赤黒い液体と共にそれを産み落とした。 その所在は知れず、それが何なのかも今となっては理解しかねる。 その日からだろうか、僕は常に焦っているのだ。 鏡の中の自分とにらめっこしているかのような…

lump

もう何もしたくない。 自らの手で自らを終わらせる意志も気力さえも起きない、 パステルカラーがやけに鬱陶しい、モノトーンの摩天楼に追い詰められる日々。 誰か俺を殺してくれ、誰か俺を消してくれ。 そう嘆くのは、そう思いながらも己が手では終わらせた…

異星人

幾光年もの長旅。 度重なる星間移動の疲労も蓄積し、変わり映えのしない黒く深い景観にも嫌気がさしてきた。 私は、果てしない宇宙の航海を続けている。 どれだけの時間が経ったのか、もはや肌感覚では分からない程だ。 私には任務がある。 祖国の星の更なる…

うつらない恋

僕には夢がある。 それは写真家になることだ。 故郷にある、なんて事のない商店街。 小枝で羽を休める小鳥達。 電柱に咲く、力強くて小さい蒲公英。 そんな何気ない風景を目にし、写真に遺すことが趣味となり、 やがて僕はプロになる事を志す様になった。 い…

願いの音

とある街の片隅に建つ憩いの場には、グランドピアノが置かれていた。 学生だった僕は、そこへ足繁く通った。 そこでは毎日、ある少女が 決まってクラシックを演奏していた。 名前も知らない少女はいつも代わり映えのしない白衣を着ていて、 儚げな横顔を、テ…