2020-11-01から1ヶ月間の記事一覧

レディネス・レディ

夜に蝉は鳴かない。 その材質のせいなのか、ジャケットが軋む様に擦れて音を立てている。 深く被ったフードから見える視界は狭く、 自分のでは無い、誰かの影がいくつか私を追い越すのが分かる。 耳に乗せたヘッドフォンから鳴るがなり声が 私と彼等との、境…

月の裏

僕の夢は、いつだってないものねだり。 明くる日も、また明くる日も 恋に焦がれ、君を想う。 求めているだけなんだ。 そんな弱さが、十一月の肌寒さに重なって 僕は歯を食いしばる。 君の半分だっていい、 僕は、僕の全てをあげたいんだ。 追いつけないから…

暴力

機械仕掛けの街、鬱蒼と茂るコンクリートの森。 偏執病のアンドロイドは、心を持ちうるのか、 鬱の病に侵される。 声高に、不条理を糾弾する自称弱者の金切り声が 黒板を擦るように、私の心を摩耗させる。 消極的な肉食主義者達は軈て抹殺され、 青々とした…

銃と君と僕と

君は僕の前に立っている。 一輪の花を握りつぶした君は、何が見えているのか? 僕は君の前に立っている。 あの花を渡した罪を、嫌というほどにかみ締めている。 君は何も言わない。 僕は君が言いたい事を知っている。 君は何も聞かない。 僕が分かっている事…

KID A

私が追いかけ、焦がれた星。 星は炎の中にいた。 炎の中から、私に語りかけていた。 この星はどうなるのか、と。 この星はどこに行くのか、と。 星は超大な爆発と共に散り、欠片は黒い海に飛散した。 星は、今も語りかけている。 私は追いかけることを辞めて…

ぬくもりさみしがり

ねぇ、あの絵を見て。 私、こういう絵とっても好きなの。 なんだか冷たくて、気持ちがいいから。 あなたはどう思う? ふーん。そう。あなたも同じなのね。 怖くて不気味だ、って。みんなと同じ。 なんで気持ちがいいのか、って? 私ね、とっても暑がりなの。…

きっと変わる

聞いておくれよ、きっと僕は変わるんだ。 何の気なしに夜の海に訪れて、 少し遠くの公園までサイクリングして、 ちょっと高いレストランで食事をして、 僕は変わるんだ。 何にもないような人生だったけれど、 僕には色が無いだけだったんだ。 色を垂らしてみ…

いっぽんみちの、わかれみち

まるで、時間が止まったみたい。 君に置いて行かれ、僕だけがここで年をとる。 時代は回ると言うけれど、もしそれが本当ならば 僕は君とまたどこかで会えるのかな。 僕には信じられないのさ、きっと直線なんだ。 交わらないけれど、線のどこかに 鳥がいて、…

怠け者

冬に色づきかけの秋。 寒波の間隙を縫って、ひょいと顔を出すぽかぽかした陽気がやけに心地良い。 路傍に転がる潰れた銀杏がつんとしていて、それもまた秋の顔なんだと頷く午後三時。 なんとなく、どこか夢見心地のまま なんの気なく川辺をとぼとぼ歩いてい…

藍色

潮騒のインディゴ。 温くてしょっぱいこの街の風が、なぜか僕達を甘くする。 深いようで浅く、僕達はひとつになる。 潮風ですっかり錆びた、アコースティックのアルペジオは重いようで軽く、 僕達は唄っているね。 波打ち際の棄てられたラジオが、今にもナイ…

インビジブル

寒空の下、瞼を閉じて、思い出す。 あの星座に向かって君と誓った約束も、 瑞々しくて不格好だった柔らかなキスも、 まるで遠い昔の神話のように、その形は流れるままに風化してしまった。 精一杯背伸びして、放ったあの日の宣戦布告は まだ続いているのだろ…