その先は言わないで
冷たいグラスが額に当たる。
彼が渡す冷えたビールを口に運ぶ。
目を擦りながら、テレビをつける彼の大きな背中が私の視界を塞ぐ。
一口きりで飲むのをやめたビールは
私の熱を吸って、紅潮していく。
私はだんだん、冷めていく。
乱雑に放り出された下着とシャツを寄越して、扉を開けて彼は消えた。
彼を呼ぶ、必死で呼ぶ。
泣き出しそうなのに冷えた私の顔を
温かくて優しい彼がそっと撫でる。
耳元で囁く彼が、愛おしくて遠い。
私が私でなければ、彼は近くに来てくれたのに、
私はいつも、私でいることを選んでしまった。
飲み差しのアルコールを二、三回
口に運んで、三〇五号室を出た。
私を包むフェイクファーが、暖かい。