ひねくれ者の独り言
どこぞの知識人が偉そうに言っていた。
「人が本当に死ぬ時、それは誰からも忘れ去られた時だ。」と。
脂がたっぷり乗った卑しさ満点の文化人は嫌いだが、その言葉に俺は唸った。
生い茂る青々とした葉も首を落とす時節に、俺は決まって郷里に赴く。
先頭に遅れをとった晩夏の煩わしさが拭いきれない、澄み渡る夕景がリフレインしている田舎町。
俺はこの町が嫌いだ。
自分の感想とは裏腹に、俺はこの町に戻る。
田畑の広がる何とも田舎らしい間隙を抜け、閑散とした平屋の一室に
まだアイツは生きている。
懐かしさに満ち、皺をこさえた暖かい夫婦が俺を出迎える。
二人は俺に、ありがとうねと腰を折り曲げて何度も言うのだ。
当たり前なことだ。礼なんて言われる筋合いはないのに、俺は嬉しくも哀しくもあるのだ。
俺はこの家が嫌いだ。
なにが嫌で、こんなにも感傷に浸るのには十分過ぎる季節に、俺はしみったれた仏頂面に挨拶をしなくちゃならないんだ。
今年も手を合わせてやる。
燻る線香の煙が鬱陶しい。目に染みる。
煩くて堪らない。
俺はお前が嫌いだ。
こうしてまた、お前を生かしてやらなくちゃならないのだから。