異星人
幾光年もの長旅。
度重なる星間移動の疲労も蓄積し、変わり映えのしない黒く深い景観にも嫌気がさしてきた。
私は、果てしない宇宙の航海を続けている。
どれだけの時間が経ったのか、もはや肌感覚では分からない程だ。
私には任務がある。
祖国の星の更なる文明の発展を実現させる為に、
異星人との交流を図ろうというものだ。
この計画は最重要任務であり、選りすぐりの航海士が従事している。私もその一人なのだ。
この旅に飽き飽きしているのは事実だが、星の威信がかかっている。途中で投げ出すわけにもいかない。
船窓に映る星の数を数えて暇を潰していると、コックピットに搭載された座標が音を鳴らした。
遂に見つかったのだ!
我々が求める星が!
レーダーには予め詳細な設定が組み込まれており、
我々の星が求める文明のレベル、居住可能な大気の有無などの条件に合致する惑星を補足するのだ。
永く、虚しい旅だと思っていたが、私の忍耐も漸く功を奏したのだ。
残された道はただ一つ、補足した惑星に降り立ち、
文明の主たる種族と交友を持つ事だ。
最も重要なことであり、決して失敗は許されない。
私はコックピットに向かい、補足した惑星への着陸の為の準備を行った。
見たところ、この惑星はとある銀河系の端にあるもののようだ。
水が潤沢にあり、大気の濃度も良好だ。
私はすぐさまモジュールを操作し、その星へと着陸した。
船を旋回させ、着陸に十分な場所を見つけ
私はこの惑星に降り立った。
任務に滞りはない。付近に知的生命体が存在しているのも確認済みだ。
此処は小高い丘のようだ。周りには建物らしきものもない。
用心のための武器を携帯し、丘を降りる為とぼとぼと歩いていると、前方に家畜らしき生物とそれを先導する知的生命体が視界に入った。
私は小走りにその生物へ駆け寄った。
言語を勝手に翻訳してくれる翻訳マスクを装着し、私は話しかけた。
「私はとある惑星からやって来た。危害を加えるつもりは無い。あなたと話がしたいんだ。」
声をかけると、その生物は腰を抜かして驚いた。
血相を変えて、私を凝視している。
その生物はこう言った。
『なんだお前は、誰だ!ニンゲンじゃないのか…?』
「ニンゲン?よく分からないが、それは貴方達の種族の名前か?」
私は尋ねた。
『いや、どうもおかしい。仮装でもしているのか?青いハダに、メは一つ、ユビは七本もある…』
どうにもこの生物の言っていることは要領を得ない。私は仕方なく、そいつを宥めた。
「安心してくれ。話がしたいだけなんだ。この星に他の異星人はいないのか?私の様な文明人が相当珍しいのか。兎に角落ち着いてくれ。」
私は内心がっかりしていた。どうも想像していた程の文明を持っていない生物のようだ。これでは全てが台無しだ。
『近付くな!オレに何をするつもりだ。この野郎。』
その生物は先の尖った棒のようなものを振りかざし、私はぎょっとして思わず腰の武器に手を伸ばした。
「なんだ……!うっ………」
私がそれを発射すると、その蛮族は膝から崩れ落ち力なく倒れた。
私は肩を落とし、暫く呆けた後、その生物を抱えて船へと帰った。
散々な目にあった。また失敗してしまった。
これで何度目だろうか。
力なくしなだれる生物を格納庫のカゴに入れ、
もの寂しい船の中で、誰に語りかけるわけでもなくひとり呟く。
「一体何時になったらこの旅は終わるんだ…
これでは家畜が増える一方ではないか………。」