泣き言は泣いてから言え
惰眠が襲う五時間目。
塩素に濡れた黒髪が汗と混じり首筋に張り付いている。
いやらしくて汗臭い妄想で脳みそを膨らます阿呆は
己の醜さを鑑みること無く、マドンナとのアバンチュールで頭がいっぱいなのだ。
下衆な悪友とポテトフライをつまみながら、世界で一番生産性のない議論にに青春を費やしている。
いたずらに繰り返す無駄の中で、少年は決意する。
「俺はマドンナに近付きたい、マドンナが欲しい!」
既にイマジナリー・ガールフレンドとのあんなことやこんなことで頭がパンパンの面皰野郎は、自分の汗臭さと決別すると誓ったのだ。
制汗剤を振りまき、はみ出した惰性の象徴たるワイシャツの裾を引っ込め、グリースで遊び倒した勘違いの具現化を催す。
面皰野郎はいつにも増して元気だ。
勘違いは、勘違いだと理解してからが勝負なのだ。
頭の中に住み着いている、法師がそう説いていた事を思い出した。
面皰野郎はもう、面皰野郎ではない。
「マドンナちゃん、あのさ……」
少年の勘違いは続く。
アバンチュールは遠く、彼の青春もまた遠い。
少年はまだ、始まったばかりなのだ!