追討
一昨日の夜、ロック・スターが命を絶った。
まるで予行練習でも行っていたのか、
皆一様に、与えられた役割をこなし始める。
スクリーンには取って付けたような定型文が並び、
彼、或いは彼女の死を悼んでいる。
涙はいつの日からか流れず、
添えられた顔を象った記号だけが
皆の心持ちを代弁するようになった。
私は想う。
彼、或いは彼女は
こんなに温かくて、非情な世界を棄てたんじゃないか。
私はスクリーンを閉じて、
脱ぎっぱなしのTシャツ達を
一枚一枚、丁寧に折り畳む。
そう、彼或いは彼女は討たれたのだ。
冷たくて大きな、皆を閉じ込めている魔物らに。
欺瞞と偽善と、不信と不安と
不感症のこの世界の機械らに。
ある日の夜、この世界の何処かで
未来のロック・スターが命を絶った。