2020-09-01から1ヶ月間の記事一覧

ストーカー

在る日の夜、酷い不快感に襲われた僕は 喘ぎ、悶えながら赤黒い液体と共にそれを産み落とした。 その所在は知れず、それが何なのかも今となっては理解しかねる。 その日からだろうか、僕は常に焦っているのだ。 鏡の中の自分とにらめっこしているかのような…

lump

もう何もしたくない。 自らの手で自らを終わらせる意志も気力さえも起きない、 パステルカラーがやけに鬱陶しい、モノトーンの摩天楼に追い詰められる日々。 誰か俺を殺してくれ、誰か俺を消してくれ。 そう嘆くのは、そう思いながらも己が手では終わらせた…

異星人

幾光年もの長旅。 度重なる星間移動の疲労も蓄積し、変わり映えのしない黒く深い景観にも嫌気がさしてきた。 私は、果てしない宇宙の航海を続けている。 どれだけの時間が経ったのか、もはや肌感覚では分からない程だ。 私には任務がある。 祖国の星の更なる…

うつらない恋

僕には夢がある。 それは写真家になることだ。 故郷にある、なんて事のない商店街。 小枝で羽を休める小鳥達。 電柱に咲く、力強くて小さい蒲公英。 そんな何気ない風景を目にし、写真に遺すことが趣味となり、 やがて僕はプロになる事を志す様になった。 い…

願いの音

とある街の片隅に建つ憩いの場には、グランドピアノが置かれていた。 学生だった僕は、そこへ足繁く通った。 そこでは毎日、ある少女が 決まってクラシックを演奏していた。 名前も知らない少女はいつも代わり映えのしない白衣を着ていて、 儚げな横顔を、テ…

青紫の部屋

ここは青紫の部屋。 満たされる煙と、揮発したアルコールが交錯する妖艶な空間。 ここには俺一人。何人たりとも寄せ付けやしない、 俺だけの空気、俺だけの時間。 伸ばした手は光を掴み取り、何か大切なものを落とす。これは代償なのだろうか。 ハンガーに掛…

世界のこうぞう

過ちを犯せば、それは瞬く間に拡がる。 隠せば隠すほどに、拡散される。 芽を摘み、根を腐らせようとも 無数の眼は決して逃さない。 道は数多に分かたれるのに、一度その道を違えれば 幾千幾万もの悪魔が追ってくる。 逃げ切る事は出来ない。 肩書きも功績も…

コイツはエンジン。俺を奮い立たせて、俺の原動力。 コイツはガソリン。俺に活力を注いで、俺の原動力。 俺は俺だけで生きているわけじゃない。 俺はお前たちのおかげで生きているわけで、俺は生きていない。 俺は死んでいる。あの日、俺は死んだ。 俺たちは…

なにかおおきなかたまり

今、胎動せよ。 悪を穿ち、煩悩を焼き払い、この瞬間にも刻一刻と迫り来る滅亡について思考せよ。 血は流れ、臓器は脈打ち、アドレナリンはおびただしく噴出する。 泣き腫らした目を気が済むまで擦ったら、立ち上がれ。 約束しただろ?俺達には迫っている。…

ゾンビの休日

ヘネシーに溶けた氷が ぶつかり合って音を立てる。 針を落とした十二インチから流れる クラシック・ロックに酔いしれる。 泣き言は言えない日々の中で 唯一、孤独という名の悦に浸る時間。 微睡みの中で脳を揺らして 噤んだ口を開いて、フレンチフライをつま…

都市伝説

あいつの話は信じるな 何でも裏で糸引いてるって話だ。 あいつの話は信じるな 男を誑かしてばかりだって聞いたぞ。 あいつの話は信じるな 俺達に何かを隠してやがる。 あいつの話は信じるな 見ちまったんだよ本当の顔を。 あいつの話は信じるな 儲け話なんて…

手記:22世紀の精神異常者

この世界は辟易している。 超高度文明がもたらす廃棄物汚染 こさえた髭が香ばしい独裁者による圧政 選民思想の副産物たる資本の奴隷達 人民を業火へと誘発する為のプロパガンダ まるでキューブリック・フィルムの様な地獄だ。 正常を維持した人民達は、己を…

生乾きのシャツに別れを告げて 茹だる暑気が訪ねて来る。 湿った教壇から見渡す教室が 今ではすっかり大人しくなった。 虫かごを提げた小学生は 秘密基地を目指し車輪を転がす。 庭に集う昆虫たちが 風鈴の音とセッションを始める。 べたつく髪を撫で付けて …

シガーキス

金曜日の午前二時。 連勤終わりの夜、僕は決まって駅前の喫煙所に向かう。 腰を下ろして、目の前を過ぎ去る人達を目で追う。 少し待ってみると、いつもの君がやって来る。 「また会ったね、今日もお疲れ様。」 ブロンドに染まった髪の隙間から、シルバーのピア…

濁り

へとへとの帰り道。 それでも私は、一生懸命頑張っている。 毎日を生きている。 道は違っていても、辿り着く場所は貴方と同じ。 私たちだけの帰る場所。 貴方さえいれば、私はどんな辛い事も乗り越えてゆける。 部屋の明かりは付いている。貴方がそこにいる…

傷ついて、傷つける

背伸びをして、小洒落たBARで君と交わしたアルコールと他愛もない話。 私たちを乗せるはずの電車も何処かに消えて、街灯だけがぼんやりと二人を照らす。 ひんやりとした夜風が辺りを包むのに、なんだか少し熱い。 何かが喉をつっかえている。 そんな帰り道。…

情熱と憩い。 煉獄と夕景。 電灯とライター。 胎動と、絶命。 原始の時代から、ヒトだけが魅せられ続けてきた 地脈の鼓動がもたらす幻惑の色。 時には抑えきれない憤怒の様相を表し、またある時は心象に灯る安らぎを表す。 私達は火に生まれ、そして火に帰結…

デッドパンズ

明くる日も明くる日も、夢から覚めないような感情に襲われる。 シェフが作ったブランチをほおばった日も、 高い空に燦然と輝く星を眺めた日も、 愛のないセックスをした日も、 私達は不感だったのだ。 ふわふわと浮遊している、心は何処かに吹き飛んでしまっ…

週末

土砂降りの雨、路肩に停めた車の中で煙草に火をつける。 疲労感に満ち満ちた、充実とは程遠い毎日の中で 僕は知らず知らずのうちに君を求めているのかもしれない。 君と交わる間だけは、僕は全てを忘れ去ることが出来る。 君と交わる間だけにしか、僕は満た…

嗚呼、素晴らしき人生

オーバーコートを羽織って、お気に入りのバゲットを買いに街へ出掛けよう。 街路樹にはイチイの実がたわわに実り、花壇の花々は揚々と太陽へアヴェ・マリアを贈る。 鳥たちは自由気ままに空を舞い、路地を歩く小綺麗なヨークシャーテリアは楽しそうにスキッ…

許容という罪

愛する人に死ぬまで憎まれる事は、きっと辛いだろう。 しかし、この世で最も苦しく、残酷な事は 自分さえも許す事の出来ない自分を、愛する人に許され続ける事だろう。

ゆるさない、ゆるぎない

頭が真っ白だ。 たった今彼女から告げられた言葉に動揺し、僕は何も考えられない。返す言葉もどこかへ忘れてしまった。 途端に、彼女が遠い遠い何処かへ逃げ去ってしまった様な気分だ。 僕は過ちを犯そうとしている。 この衝動はたとえ、ギターをアンプに突…

俺の夢

月曜日は湖畔に佇む白装束の女が、睡蓮の花を渡る。 火曜日は甲冑を着た男が、古城の壁を叩き壊して追いかける。 水曜日は山奥のモーテルに潜む殺人鬼に、命を賭して立ち向かう。 木曜日はコンピューターに支配されたバベルの塔から、愛する人を殺せと命じら…

苛立ちと虚無と矛盾と。

正午を過ぎて、陽の光が脳天を貫く頃。 五月蝿い蝉のがなり声に叩き起され、俺の体は目を覚ます。 煩わしさを押し殺して精一杯目を擦り、必死に身体へ動けと命令する。まるで自分のものじゃないみたいだ。 気の抜けたぬるい三ツ矢サイダーを一気に飲み干し、…

あいの神話

遥か昔、太古の宇宙。 広大な闇の天蓋に張り付いていた、一つの蛹が孵った。 その胎内は混沌で満たされ、やがて顕現した身体はあまりにも美しく、最上の神秘を帯びていた。 しかし、此処は闇。 暗く、冷たく、瞬きすらも残響するほどの静寂で満たされた闇。 …

夭折

手にした命を品定めしたら、後はピリオドを打つだけ。 冗長なテキストに価値は無い。お前の抱えるソレと同じさ。 決めるのはお前だ。 逝くも逝かぬもお前の自由。 それは究極の自由。 片道切符の見切り発車で 衒学的な知識人でさえ知る由のない世界へ旅立つ…

少年Aへ

もしも僕が君であったならば、僕は誰かを殺さなかっただろう。 もしも僕が君であったならば、僕は誰かを頼っただろう。 もしも僕が君であったならば、僕は誰かを愛しただろう。 世界が君を許さなくとも、僕は君を抱きしめたい。 僕だけは君を受け入れてあげ…

シティーボーイ・ノスタルジア

高い空に澄んだ空気で満たされた田園風景。 背には山々が連なり、葡萄のなる木が生い茂る。 かつては誰もが思い浮かべた故郷の情景を、私達は知らない。 コンクリートに生まれ堕ちて、紳士服の雑踏に紛れ込む毎日。 鬱屈した私達の日々は冷たく、死にたくな…

世界で一番小さな歌

リビングの奥に隠れた四畳半 僕だけのステージ。 敷き詰められたステッカーが客席を睨む こいつは相棒のレス・ポール。 アンプには繋がない、 夢想のパフォーマンスが今始まるのだ。 熱狂するファン達が地平線の向こうまで並ぶ様は、さながらオスマンの大行…

ダル・セーニョ

笑顔と涙が咲乱れる、出会いと別れの繰り返し。 ほろ苦くて、甘い季節。 僕は未だ、前に進めずにいるのかもしれない。 しんしんと降りしきる雨と共に散る桜が 優しく僕を撫でつける。 僕はまたここに立っている。 今日は君との再会の日、君との離別の日。 も…