懐
生乾きのシャツに別れを告げて
茹だる暑気が訪ねて来る。
湿った教壇から見渡す教室が
今ではすっかり大人しくなった。
虫かごを提げた小学生は
秘密基地を目指し車輪を転がす。
庭に集う昆虫たちが
風鈴の音とセッションを始める。
べたつく髪を撫で付けて
額の面皰を押し潰す。
噴出す汗が流れ落ちて
汗疹にじんわり染み込んでゆく。
セーラー服を着ていたあの子は
何だか少し大人に見える。
真っ白けだった短パン小僧は
小麦色に大変身。
おじさん達の真似をしたくて
冷たい麦茶を喉へ押し流す。
二人で花火を眺めながら
林檎飴みたいに頬を染めた。
今しかない、今しか出来ない
しょっぱくて、すっぱい夏休み。
もう二度と戻れない
淡く、儚い萌葱色。