2020-09-01から1日間の記事一覧

世界で一番小さな歌

リビングの奥に隠れた四畳半 僕だけのステージ。 敷き詰められたステッカーが客席を睨む こいつは相棒のレス・ポール。 アンプには繋がない、 夢想のパフォーマンスが今始まるのだ。 熱狂するファン達が地平線の向こうまで並ぶ様は、さながらオスマンの大行…

ダル・セーニョ

笑顔と涙が咲乱れる、出会いと別れの繰り返し。 ほろ苦くて、甘い季節。 僕は未だ、前に進めずにいるのかもしれない。 しんしんと降りしきる雨と共に散る桜が 優しく僕を撫でつける。 僕はまたここに立っている。 今日は君との再会の日、君との離別の日。 も…

代償

バロック調の礼拝堂で 真夜中のワルツを踊り明かした。 もう、私に口煩く小言を言いつける うざったい大人はどこにも居ないのだ。 彼らは私を痛め付けて、縛り付けて、嬲って、犯した。 だからこの手で殺したのだ。 真紅に染まったドレスは揺れ、チャイコフ…

月曜日

タラタラしてんじゃねえよ。もうそこまで来てるぞ。 それ見ろ、追いつかれるぞ。 逃げろ、逃げろ、逃げろ。 今日まで人気者だったのに 太陽が顔を出せば、お前もまた嫌われ者だ。 えぇ?まだ続くのかって?? そんな恨み節を言われてもなぁ、困っちゃうよ。 …

クリエイター

湧き上がる暗い塊は今、産声を上げた。 その声を取り出す為に心の壁を掻っ捌いて 流れ出る感情と共に顔を出した、形骸化したインスピレーションに息を吹き込む。 お化粧をして、身だしなみを整えて、 パーティーに赴くのだ。 産まれたての赤ん坊は必死に前へ…

しあわせ

こじんまりした喫茶店で 今日も私はほっとひと息。 咥え煙草の老人を 一瞥してから扉を開ける。 12世紀のオートマタは 褪せた眼で虚空を眺める。 めくる頁に染み付いた 何処かの誰かの好奇心。 くすんだ檜の木目に残る わんぱく坊やの引っ掻き傷。 どんなに…

宣戦布告

秋。あんなに陽気だったお天道様が 今では少し気だるげな様子。 Tシャツだけじゃ肌寒いけど、 ジャケットなんか着たくない。 隠したいものなんて、もう何も無いのだから。 大人も寝息を立てる夜。 僕はちょっぴり背伸びしたくなった。 憧れのロック・スター…