シガーキス
金曜日の午前二時。
連勤終わりの夜、僕は決まって駅前の喫煙所に向かう。
腰を下ろして、目の前を過ぎ去る人達を目で追う。
少し待ってみると、いつもの君がやって来る。
「また会ったね、今日もお疲れ様。」
ブロンドに染まった髪の隙間から、シルバーのピアスをちらりと覗かせている、少し背の小さい君。
僕は君に恋している。
この瞬間にも、僕は君のことを知りたくて堪らないんだ。
いつも君を待っている、なんて口が裂けても言えやしない。
君が鞄からライターを取り出す素振りを見せてから、ポケットのZIPPOに手を伸ばす。
僕はわざと、遅れて煙草に火をつける。
君のセブンスターは、僕のよりも少し重たい。
きっと僕しか気付いていないだろうけど。
吸い慣れた煙草のはずなのに、この時間だけは
ちょっぴり甘く感じる。
たなびく煙が草臥れた空にのぼっていき、月に照らされ夜風と混じり合う。
火を付けたはずの君が突然、僕に呟く。
「ライター切れちゃったみたい。火、ちょうだい」
君は透き通るような白い肌を近づけ、少し背伸びをして、
僕の口から火を盗んでいった。
頭が真っ白になり、咄嗟に君の方へ振り向くが
ブロンドのショートボブが君の表情を隠していた。
揺れる煙が、止まったままの二人を置き去りにする。
僕は君に、恋してしまった。
まだ君のことを、何も知らないというのに。
二人の距離は、あと二十センチ。
一本分の時間に、二本分の想い。