シティーボーイ・ノスタルジア

高い空に澄んだ空気で満たされた田園風景。

背には山々が連なり、葡萄のなる木が生い茂る。

 

かつては誰もが思い浮かべた故郷の情景を、私達は知らない。

 

コンクリートに生まれ堕ちて、紳士服の雑踏に紛れ込む毎日。

鬱屈した私達の日々は冷たく、死にたくなるほど無機質だ。

 

人工知能に飼い慣らされ、奴に勧められるままに私欲を満たす。そこに"守るべきもの"は無く、消費という名の麻薬に溺れてゆく。

 

美しき故郷とやらは、とうの昔に

私たちが踏み鳴らしてしまったのだ。

 

もはやこの世界に秘境などなく、無限の暗黒の中に浮遊する鉄の塊が、この世界の秘密を暴いていった。

 

先人達の亡き故郷は、やがて電脳のパラレル・ワールドに流れ着く。そこは実像と虚像が、過去と未来が、真実と嘘が交錯するもう一つの世界。

 

高層ビルに捕らわれた私達の故郷は、随分と小さくなってしまった。

 

此処にあるものが私達の全て。

 

僅か数センチの長方形が映し出す、

私達の"田園風景"。