傷ついて、傷つける
背伸びをして、小洒落たBARで君と交わしたアルコールと他愛もない話。
私たちを乗せるはずの電車も何処かに消えて、街灯だけがぼんやりと二人を照らす。
ひんやりとした夜風が辺りを包むのに、なんだか少し熱い。
何かが喉をつっかえている。
そんな帰り道。
タクシーを探して、君に足並みを揃えるようにぽつりぽつりと一歩ずつ踏み出す。
つっかえていた塊が、情けない私の言葉と共に溢れてしまいそうになる。
堪える度に、涙が滲みそうになる。
「私は──────。」
せきとめていたものが溢れだした。
塊は消え、ぐちゃぐちゃの感情と融解して君の足元に流れ出す。
『もしかして、酔ってる?』
流れ出したむき出しの愛を
君は"すくって"くれなかった。
そんなこと分かりきってたくせに。
もし私が酔ってさえいなければ、君は受け止めてくれたの?
その時、君はなんて答えたの?
何も言えなかった。
明かりの沈んだ夜の街に、君の声が反響しているようで、辛くなった。
君に贈った腕時計の秒針の音さえ聞こえてしまうくらい、辺りは静まりかえっていた。
人気の無い大通りの脇に停車した二台のタクシーに乗り込んで、私と君はそれぞれの帰途につく。
胸の真ん中にぽっかり開いた大きな空洞を、いたわるように撫でる。
辛いのは私なのに、傷つけたのは君なのに
どうしてだろう。
別れ際、君の見せた切ない表情を
私は今でも忘れられない。