あいの神話
遥か昔、太古の宇宙。
広大な闇の天蓋に張り付いていた、一つの蛹が孵った。
その胎内は混沌で満たされ、やがて顕現した身体はあまりにも美しく、最上の神秘を帯びていた。
しかし、此処は闇。
暗く、冷たく、瞬きすらも残響するほどの静寂で満たされた闇。
神秘の顕現を拝謁し感銘を受ける者も、糾弾する者もいない。
彼の者はひどく苦しみ、そして嘆いた。
緞帳に覆われた籠に隠された神秘は原初の孤独を見出し、一筋の涙を零した。
その涙は、彼の神秘を模倣する。自身の孤独を慰め、救済する為に。
何時しかその模造品は結晶となり、あらゆる幻術を内包する実を宿した。
彼の者は恒久の時を費やし、実を育て、自身の糧すらんとした。
その最中で彼の者は、原初の愛情を見出した。愛情は無数の実に注がれ、芽吹いた。
悠久の時を経て、芽は花となり、花は広大な闇を照らす光となった。
彼の者は花々を慈しみ、我が子とした。
子供達は絢爛たれ、という教えを守り、がむしゃらに咲き乱れ、
精一杯、彼の者を喜ばせんとする。
彼の者は無邪気な子供達を見て、原初の絆を見出した。
絆。それは無償の愛の先にある、神秘の魔法でさえも遠く及ばぬ奇跡。
彼の者は初めて、感涙を零した。
孤独の涙は希望の涙へと変わり、暗幕の世界に未来を堕とした。
かつてのように、涙は結晶へと成長する。
神秘に最も愛された
その結晶の名は、地球。