午前1時

 

夜の冷たさが、僕をホットコーヒーへ導く。

 

淋しさを消し去る街灯の下で、胸ポケットから取り出した煙草に火を付けた。

 

何の気なく空を見上げていると、随分と"出来上がった"様子のおじさんが、よたよたと歩きそのまま僕の横へ腰掛けた。

 

「見えるかぁ、坊主。」

 

『何が?』

 

「星だよ、星。」

 

僕が見上げる空には確かに、限りなく薄く星座を形作る星達の集いが辛うじて分かる。

 

『そうだなぁ、何座でしたっけね、あれは。』

 

「どうだかなぁ、俺にはもう見えねぇな。」

 

おじさんは細い溜息を付き、手にしたワンカップを啜った。

 

「俺ァもう歳食ったからよ、今の空は俺には暗すぎるんだ。」

 

『はぁ。』

 

僕は気の抜けた相槌を打つ。

 

「坊主、なんで空なんか見てんだよ。」

 

『なんで、って言われても……何となく。』

 

「ははっ、んなもんわかんねぇよなぁ。」

 

要領を得ないおじさんとのやり取りは僕を眠気に誘うには十分過ぎる。

 

堪えきれず、欠伸をした。

 

「でもなぁ坊主、お前はあそこに行くんだぞ。」

 

『え?』

 

「今のお前には分からんかもしれんがな、お前はあそこに行くんだ。見えるうちに、見逃さないようにな。はっはっはっ。」

 

酒気をうんと漂わせたおじさんは、まるで僕のことを何でも知っているみたいに笑った。

 

釣られて僕も笑いそうになって、また空に目をやると、

 

おじさんが言う、僕に目指せといった星が

何となく見えた様な気がした。