歯車

 

四方は灰色の壁で囲まれている。

 

天井の染みは何かの暗喩では無いのかと勘繰るが、その故は誰も知らない。

 

柱から垂れ下がる緞帳の奥で、何かが蠢いている。

 

みすぼらしい老夫婦は幾重に重なった仮面の奥で薄ら笑いを浮かべている。

 

その理由は誰も知らない。

 

壁は絹で出来ている。

 

蚕の群れは力無く這い回るが、皮肉なことに己が産生した繭の外を知らない。

 

繭は脆く、また壁も脆い。

 

繭の内から赤黒い汁が滲み、壁はまるで腐葉土のように汁を吸う。

 

その正体は、誰も知らない。

 

汁は然る後に四方の壁を染め上げ、衰微した内なる世界は瓦解する。

 

緞帳は降り、崩壊の間隙からその正体を知らせる。

 

何かがいる。

 

 

仕組まれた壁の中の、その全てを

 

奴だけが知っている。