君が大人になっても

 

庭でコロコロと虫が鳴いている。

 

その鳴き声がどの虫のものかは、僕には皆目見当がつかない。

 

これはコオロギで、あれはキリギリス。

 

一体どこで仕入れたのだろう無駄な知識を誇らしげに教えてくれる、君が大好きだった。

 

君の幼さが、僕の幼さを教えてくれた。

 

あれから七年。

 

ロータリーに忙しなくタクシーが行き交うこの都会で、僕は君を再び見つけた。

 

面影は何処にもない、誰もが知っているブランドのバックに、きっと高価なイヤリング。

 

嫌味な白い歯を顔いっぱいに広げて、赤茶けたポニーテールを揺らす君がいた。

 

大人になった君は、僕を大人にはしてくれなかった事を思い出す。

 

左手がきらきらと光って見えた、君が持つスターバックスの汗だろうか。

 

時間は止まったまま、喧騒の中で、

 

 

室外機に張り付いた虫の鳴き声だけが、聞こえた。