期待外れ

 

「あ。」

 

プラットフォームに蝉の死骸が落ちてきた。

 

夏の、よくある光景だ。

 

僕は顔を顰めたが、彼女は興味津々に死骸を覗きこんだ。

 

『蝉ってさ、一週間の命なんだってね』

 

「あーー、、、」

 

『一週間腹いっぱい鳴いて、それで死んじゃうんだよね。蝉は幸せだったのかな。』

 

「いやでもあれって確か、」

 

『わあっ。』

 

彼女がパンプスの爪先でつついた死骸は突然体を翻し、じじっと音を立てながら飛んでいった。

 

『死んだふりかあ、吃驚した……』

 

ぎょっとして身体を強ばらせた彼女は、少し嬉しそうにそう呟いた。

 

『あれ…何が言いかけてた?』

 

「蝉はひと月くらいなら生きられるらしいよ。普通に。」

 

『………なぁんだ。』

 

 

彼女は、さっき僕が蝉を見た時と同じ顔をしていた。