リィンカーネーション
草花は衣を脱ぎ換え、野山は移ろう。
どれだけの四季が繰り返し、夏は過ぎ、稲が首を擡げようとも
私は病衣のまま床に臥している。
寝台の横にある、キャビネットに置かれた花瓶は空のままだ。
患った母は先立ち、ささやかな友人もいつしか私と顔を合わせる事は無くなった。
あまりにも克明な死の感覚だけが、私の輪郭をなぞるように全身の感覚器官を駆け巡る。
窓の外を眺め、眼下に落ちた葉の数だけ、
私は生と死を交互に願い、呪った。
余命宣告から四年と七ヶ月。
主治医と、私を担当した看護婦に看取られながら、私は死んだ。
「これまでが生、これが死。」
安堵も束の間、私は病室にいた。
馴染み深い病室ではあるが、私がいない。
しかしながら、私はここにいるのである。
ふわふわと漂う視界に眩暈が生じ、個室の便所にある姿見に目をやると、私は蠅であった。
「生きているのか?私が?」
時には生を呪い、死を願った私がこの姿に成り果てた、
初めての感情は、もう一度、一目でも母に会いたいという、ただそれだけであった。
懸命に羽ばたきながら、生を呪った私自身をあまりにも愚かであったと私は、私自身を詰った。
幼年から患い、勉学も青春も全て病に侵され奪われた私への恵みだと。
神の慈悲だと、私は泣いた。羽ばたいた。
ぶうんぶうん。
影が迫り、身を翻そうともがいていると、
見知らぬ患者の両手に潰され、絶命した。
二度目は無かった。