空色
昼食の後、五限目の美術。
並べられた不揃いな僕達は皆、画用紙を睨む。
それぞれの世界を振り返り、その一部を切り取って
は、目の前の真っ白な紙にイメージを写す。
僕は何も浮かばなかった。
ただひたすら、ぼうっと空を目で追う。
僕は、何でもない日常の空想を思い出した。
ひょんなことから、虹色の世界を歩き出したあの夢を、僕は今の今まで忘れていたのだ。
今にも崩れそうな扉のノブを回すと、扉はぼろぼろと秩序を失った。
渦を巻いた草花があちこちに並び、ぎゅおんぎゅおんと耳の傍で鳴っている。
木に成る、僕の顔らしい木の実の、ちょうど額の辺りにナイフを刺す。
じわりと、生気を感じる厭な音を立てて
緑の果肉と橙色をした果汁が滴ったので、勿体ないと思い、啜った。
ふと、空に目をやると、
黒でも白でも無かったいつもの空は、極彩色の飛魚と鯨に満たされていた。
この音は、どうやら魚達の呼吸らしかった。
彼らの胎内に走る血がこの世界の色のようだったが、
赤色だけが、虹から零れ落ちていた。
ふと、我に返る。
僕は駆り立てられ、筆をがむしゃらに走らせる。
虹。
ただそれだけが、白けたA3の紙切れに漂っている。
朗らかなあの美術教師でさえ、僕の絵を見て
苦虫を噛み潰したように顔を顰(しか)めた。
何故だろうか?
不思議に思い、作品に目をやると、
僕の虹は六色だった。