夜の鳥、もういいかい。
ぴゃあ、ぴゃあ。
母さん、夜の鳥がいるよ。
漏れそうな声を必死に殺して、頭を振る。
見えるよ。夜の鳥。
ぴゃあ、ぴゃあ、ぴゃあ。
ちかちかしている、ガスコンロの天板に引っ付いた蜘蛛の巣が揺れる。
揺れて、揺れる。僕も揺れてるよ、母さん。
ぴゃあ、ぴゃあ、ぴゃあ、ぴゃあ、
窓から見える、柳に隠れた電柱に
いる。
夜の鳥は、首を280度に傾けて、
「なくし物は何ですか。生き物ですか。何なんですか。」
話しかけてくる。
母さん、母さん。
ぴゃあ。
青白い、病弱な母さん。
揺れている。
馬鹿げた冗談はおよし、といつも怒鳴られる。
ぴしゃりと叩かれる。
叩かないでおくれ。母さん、夜の鳥だよ。
「ぴゃあ。」
夜の鳥は、鳴かなくなった。
窓からずうっと眺めている。
母さんにも、見えていたのかな。
とんとんとん、とんとんとん。
人参を、刻む音。
骨が痛いよ、母さん。軋む音。
誕生日に貰った、生きもの図鑑を母さんと読んでいる。
母さんは夜の鳥を、見つめていた。