ばったもん
七月の暮れ。
くたくたの革鞄を脇に挟み車窓を覗く。
高架下を流れるあの川も随分、小さくなった。
仕事を辞めた。
押しとどめていた虚脱感がどっと溢れかえり、芯に溜まった溜飲が下がる。
その足で、帰省した。
故郷であるその小さな街は、より小さな町になっていた。
郊外の団地を抜けると、公園がある。
公園は縦に長く、両脇の堀には清流が流れていて、メダカやアメンボたちが暮らしている。
昔に比べると川は細く、狭くなっていた。
麦わら帽子に緑の虫かごを提げた少年が駆けていた。
茂みは深く、川は広く、空は高かった。
少年は目線の先に、一際大きなショウリョウバッタを捉えて離さなかった。
蕺草の悪臭をくぐって、背丈よりも高い虫取網を構えて、振りかぶる──────。
───俺も、あの少年だった。
何時からか、この辺りも虫が少なくなったなあ、と思っていた。
野山も木々も川も海も町も、空でさえも、
世界は縮んでしまったと感じていた。
この街は何一つ、変わっていなかった。
少年は大人たちを置き去りにして、大きな大きな公園を駆け回っていた。
帰途につく。
あの頃の駄菓子屋はコンビニに変わっていた。
中へ入り、陳列されたボトルにふと目をやると、
反射した俺が映っていた。
ガラスの中にいる俺の背中は、ひどく小さく見えた。