パッとしない夏
『何?』
「何でもない。」
何時からこんな、ぶっきらぼうになったんだろう。
確かに何でもないが、もうちょっとこう、何かあるだろうに。
「ほら、」
『ん。』
ありがとう、も無いのか??
ちょっと奮発して、期間限定のハーゲンダッツを買ってきてやったのに。
「何、面白いのそれ」
『別に、暇だから』
テレビにはひな壇の上で嘘みたいな笑い方をしている、人気のイケメン俳優がアップで映っていた。
なるほどな。
「悪かったな、パッとしない顔でさあ」
『何それ。向こう行って、爪切り取ってきて』
イヤミを吹っかけてもこんな調子だ。
酷いもんだよ全く。
どういう訳か、無造作にペン立てに突っ込まれていた爪切りを持って引き返すついでに、缶ビールを冷蔵庫から取り出す。
こんな調子でも、ビールは美味い。
『ね、聞こえる??』
「ん?」
『ほら』
耳を澄まして、彼女が指を指す方を見ると、花火が上がっているのが分かった。
と言っても、出来たばかりの建売住宅の屋根に隠れてまともに見えやしないが。
『早く行くよ』
「えぇ、夜更かし始まっちゃうんだけど」
『いいから、さっさと支度して』
ビールを口元に運ぼうとした所で、反対の腕を突然ぐいと引っ張られた。
全く乱暴だ、たまったもんじゃない。
やっぱりもうちょっと、何かあるだろうよ。
泡立つビールを放ったまま、一昨年の夏に買った色違いのビーチサンダルを履いて、仕方なく玄関を出る。
もう二年も経つのか。
ふと思い出すと、やっぱり腹が立ってきた。
彼女はあの時からずっと、ぶっきらぼうなままなんだもの。