掠れている。

 

荒れた皮膚は吹きさらしのまま、布に擦れてひりひりと傷んでいる。

 

血に濡れたジーンズを脱ぎ捨て、硝煙に塗れたジャケットを水面に浮かべた。

 

ごとり、と一丁の拳銃が転がり落ちる。弾は入っていない。

 

少し湿気った紙巻を咥え、何とか火をつけてぼうっと空を眺めている。

 

月に映った、兎を背に鳥が羽ばたいていた。

 

鳥は知らない。

 

俺の身に起きた事を、俺が脱ぎ棄てたものを。

 

俺が撃ち殺したものは今どうしているだろう。

 

ぐにゃりと曲がって、不規則に揺れる水面の月に目をやる。

 

昔、叔父が教えてくれた波と関数の関係をふと思い出した。

 

あまりにも数学的ではない、不条理さを嘲笑して、

 

俺は空の拳銃の引き金を引いた。

 

厭な音が耳を劈く。

 

 

俺は知っていた。

 

 

俺はあの鳥の正体を、行先を知っていたのだ。